セレブとわたし〜アフター〜




   「こうなったら奴らよりも先にフランスへ行って、新しい下宿先を決めないと…」



   どうせ現在自分が四年間生活する事になっている大学の宿舎は悠斗たちに

   押さえられ、(もしくは買収され)、私以外の生徒は皆別の宿舎へと変更を迫ら

   れている事だろう。奴らは自分達の生活の場に他人――もっと簡単に言えば

   私と悠斗、明美、隼人以外の人間が入り込んでくる事を殊の外嫌う。

   どうせ三人の中の誰かが、四人で快適に大学生活を送る為に早速手を打って

   いるに違いない。はっきり言って、私は新しい環境を楽しみたいんだ!

   それを悉く邪魔しようとする彼らが、天敵に見えて仕方がない。

   よし、こうなれば来週の日曜にでも出発するか。探している間は安いホテルに

   でも泊まればいいし、見つかったら即効帰ってくればそうお金も掛からない筈。

   そうと決まれば早速航空会社に電話しないと――そう思いたって、立ち上がっ

   た時。静寂に包まれていた空間に、ブルルルと電話が鳴った。

   電話に出る事は面倒くさくてあまり好きではないけれど、立ったついでに渋々

   と受話器をあげて、聞こえてくる声に耳を澄ませる。



   「もしもしーーー」

   「ああ、柚葉?聞いて聞いてっっ!!すっごいビックニュースがあるのよ!」



   内心嫌な予感がしつつ、声を聞いただけで相手が分かった明美に、続きを促

   した。ほんとーに、頭の片隅でそれ以上聞いちゃいけないって警報が鳴って

   いたけれども。



   「隼人がね、フランスの大学近くに別荘を買ったんですって!しかもお城よ、

   お・し・ろっ!!最初は柚葉が入る予定だった宿舎を四年間貸切状態にした

   んだけど、こうなったらそっちに変更しないとね!私、普通の別荘なら何件か

   持ってるけど、お城はイギリスぐらいにしかなくて――もちろん、四人で生活

   するって言っても野蛮なあいつらとは別棟にするけどね」



   楽しみよね〜お姫様よ!と明美が嬉しそうに声を弾ませているのを聞きなが

   ら、私は電話を耳にあてがったまま体を硬直させていた。

   その口調では、もう自分がそこで学生生活を送る事が決定してしまっている。



   お城?別荘にお城?しかもそこが下宿先?



   意識がだんだんと、クリアになっていくのに私は全然気づかない程思考が停

   止していた。







   その後、電話越しにまったく反応を示さなくなった私に不審を抱いた明美は

   急いで我が家へと(鍵は掛けてなかった)駆け込み、あまりの驚愕に現実

   逃避して意識を失って倒れている姿の私を発見して、慌ててお抱えの医者

   を呼んだそうだ。そして、目覚めてみれば心配そうに自分を覗き込む三人

   の姿。悠斗なんかは、許可なんぞしてないのに手を握ってさえいる。

   こんな心配そうな顔を見てしまうと、下宿の件もまぁしょうがないかなと思え

   てしまう自分はきっと末期だ。内心どうしよもない自分に半ば諦めつつ、私

   は三人を安心させるようににっこりと微笑みを浮かべた。






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