世の中には、注目される人間とそうでない人間、又はその中間に立つ者で構成されている。




世界での験記、るいは…?




例えばそう、我が母国・日本の総理や大臣などは明らかに『注目される側』の人間だ。ひと

つひとつの動作が常に話題となり、休まる事をしらない。

こうして淡々と自分の意見を述べている私はどちらかと言うと『中間に立つ側』の人間であ

る。まぁ、その理由を簡単に説明するなら。

―――私以外の家族全員が、特に際立つ『注目される側』の人々だからだ。

簡単に皆を紹介すると。

一家の大黒柱たる父は、世界的大財閥の社長にして日本では裏で政治を操っているとま

で言われている狸。(これは私の主観)

そんな夫を影から支えて――いない元ハリウッド大女優の母。

結婚後夫の下で経営学を学んだ彼女はその面白さに目覚め、今では自分で夫とか関係の

ない会社を興し奮闘中である。大財閥の社長夫人として役目など放置状態だ。

ちなみに現在の国籍は日本だが、祖国はフランスである。

何でも学生時代にアメリカの映画監督にスカウトされて、渡米したんだとか。

父とどういう経緯で出会ったかは興味がないので聞いていない。

次に、私と9歳離れている長男。

職種は父の跡継ぎ、某難関大学を14歳で飛び級して卒業してしまった天才。

IQが物凄く高いらしいが…これもまた興味がないので知らない。

今はヨーロッパにある企業らを任されており、日々あちこち飛び回っている…らしい。

長男の下は次男。

ハーフだと一見してわかる甘ったるい容姿を持っているこの兄は、日本でトップアイドルとし

て活躍中。最近では母の血を受け継いだのか俳優にまでチャレンジしている。

その人気はうなぎのぼりで、何でもコンサートチケットをオークションに出すと元値の十倍

以上の値がつくとかつかないとかつかないとか。

どこまでが本当か検討もつかないが、取り敢えずファンが多い。

そして最後の家族は、年子の妹。

キャラメル色のふわふわとした髪が特徴の都内有名お嬢様高校に通う女子高生である。

兄たちと違ってこれといった活動をしていないのだが、何故か崇拝者が多い。

私を除く家族全員がこの子を溺愛していて、我が家は妹を中心に廻っているといっても

過言ではないだろう。まあ本人は至って呑気者(いや、天然か?)なので、それを悪用し

て人様をどうこうしようとはしないが。

以上が、我が家に関するインターネットで簡単に調べれば出てくるデータである。

祖父母とは同居していないので、(だって母方は外国在住だし)最近の典型的な核家族

である。簡単に言えば6人家族。

兄妹が4人もいるなんて、日本の少子化を考えれば多いほうなのかな?

まあ、どうでもいいけど。

ここまで聞けば、この色んな意味でど派手な家族の長女である私もさぞやすごい人物

なんじゃないかと思う人も居たかもしれないけど、ノンノン。

私、櫻坂 透佳(さくらざか とうか)は。

19歳、引きこもり。現在、部屋から一歩も出ないだけでなく、ろくに家族とも顔を合わせ

ていないのです。……まあ、仕方がないと言えば仕方がないんだけどね。

だってそうでしょ?

----------一日の大半を、異世界で過ごしているんだから。



+ + + + + +



こちらの世界――インフェリアーディナ(発音が難しいので覚えるのに苦労した)に来て

しまったのは今から6年前。

事故だったのか、それとも自意識過剰で言ってしまうば世界に呼ばれたのか。

定かじゃないけど、中学校の下校の途中で行き成り目の前が真っ暗闇になったと思え

ば周りの風景が変わっていた。

みんなは想像できる?突然自分の置かれている状況が激変して、尚且つ見たこともな

い景色が目に飛び込んできた時の恐怖を。

よく異世界トリップの物語でそんな場面が出てくるけど、所詮は作り話だ。

冷静でなんていられる訳がない。

月は2つどころか6つもあるし、変なフワフワした物(後でわかった事だったけど精霊だ

った)があちこちで浮かんでいるし。

――何より!!

目の前に、そりゃあもう今まで見たことがないようなデカイ生き物がどんっと構えてこっ

ちを見てたりすれば。

誰だって悲鳴を上げるでしょ!

あの時の恐怖は今でも覚えている。ほんとーに、ほんとーに怖かった。

今思い出せば笑い話で済んじゃう話だけど、その時は事情とかも分らなかったし、何よ

り竜っていう存在自体はファンタジー上の空想物だと思ってたから。

もう慣れたけどね。

で、その場で気絶してしまった私だけど、目覚めてからは現実を受け入れるしかなくて

色々と努力した。ええ、自分でも自画自賛してしまうほど!

竜とか精霊みたいな不思議生物(この世界では普通らしいけど)とは精神の中で会話

が出来たからいいけど、異世界人相手ににはそれが通用しない。

よって、語学を習得することから始まった。

それから、世界の常識、生きていくための防衛術や何やらを必死で勉強して…。

二年くらいたった頃には生きていけるに問題ないまでになったかな。

あ、ちなみに異世界に飛んで一番初めに出会ったのが竜だったって言うのは、別に特

別な意味はなかったらしい。

彼ら(不思議生物たちね)が言うには、仲間で酒盛りをしている最中に突然私が目の

前に現れたんだとか。簡単に言えば、自分たちはこっちの世界に来た理由なんて何も

知らないよ、ってこと。

元の世界に帰れる方法はあっさりと見つかったから、帰ろうと思えば直にでも出来た

んだけど、現代の生活に疲れを感じていた私はこっちの世界の方が面白いと感じて

居座ることにしたわけ。

もちろん、一度帰って家族や周りに疑われないように(だって失踪届けとか出されたら

面倒だし)色々と工作したけど。

一人で生活が出来るようになるまでの面倒は、竜たちと一緒に酒盛りしていた正体不

明のおじさんが見てくれた。

最初は変な趣味とか持ってるんじゃないかって怪しんだけど、特にこれといった変な

動作はなかったし、一緒に生活していくうちに根は良い人だって事がわかったから今

では義理の親とも言える存在になっている。

よく考えれば私ってラッキーだったかもね。下手したら獣とかに襲われて死んでたか

もしれないし。最悪の場合餓死してたかな?

………やばい。本当に感謝しなきゃ。ありがとう、おじさん!

完璧に異世界人になれるまで生活した場は深い深い森の中だった。

普通の人間が住む場所まではすごーくすごーく離れていて、何でも落下しなければ

いけないんだとか。

あ、落下っていうのは文字通り落ちていかなきゃいけないって事。

今でもよくわかっていないんだけど、あの森は世界の空に浮かぶ島に存在していて、

人間は誰も近寄ることが出来ないんだって。

16歳になった私は、おじさんにこの世界を旅してみたいってお願いした。

だって、勿体無いと思わない?見たこともない感じたこともないものに出会うって。

最初の心構えさえあれば、来たときみたいに気絶しないしさ。

身を守る為の体術や魔術もおじさんに教えてもらったからある程度使えるようになれ

たし、何より私に懐いたなっちゃん(ふわふわした精霊の一種で、狼と虎を足して割っ

た感じの子。ちなみに名前はナシュー)もついてきてくれるって言うし。

これはもう旅するしかないでしょ!

って事で、おじさんに一瞬で人間の住む大陸まで移動できる手段を教えてもらって、

(だって落下するとか普通に無理だし)私の冒険は始まったのです。

時々里帰り(あ、森の方ね)するために大陸から空に浮かぶ島まで移動する手段も

ついでに教えてもらったんだけど。

これに関しては、絶対に例え親しくなった人にも教えちゃだめだって言われた。

何でかなって思ったんだけど…意外に自分は人見知りなんだって本人が言ってて、

住処を他人には知られたくなかったらしい。

更に竜とか精霊は珍しくて捕らえようとする邪な人間もいるから、用心のためにとも

言ってた。うん、こんな理由なら納得できるよね。



+ + + + +



ここまでが今から4年前の出来事。

今現在の私はと言うと------てへ、子供が一人、ついでにお腹の中に二児目を宿

してたりします。

すごーく話が飛んじゃって申し訳ないんだけど、旅先で出会ったあいつと何をとち

狂ったのか結婚しちゃって今じゃ子持ちの母になっちゃったって訳。

向こうの世界じゃ明らかに若い母親よね。

こっちの世界じゃ割かし普通っぽいけど…まあ、こんな事考えても仕方がないか。

しかも初めての子を身篭ってから知ったことなんだけど――やつ、こと私の旦那

は本名はエルファード・ライッツ・イーダ(以下略)っていう長ったらしい名前を持っ

た大国の家出王子だったらしい。

あの時は本当に切れたね。だって意味わかんなかったし、何よりずっと黙ってた

あいつがムカついてムカついて仕方がなかった。

今じゃ立派に王太子妃を務めていますとも!!!

あ。今の訂正。昨日まで、立派に務めていましたとも!!!

今現在はやつの態度にいい加減堪忍袋の緒が切れたので昔のあいつみたいに

子供を連れて家出中です。

普通だったら危ないからって子供を置いていくかもしれないけど、私からしたらそ

んなこと有り得ない!!

こんな可愛くて天使みたいな子を置いていくなんて絶対に無理。

妊娠中の身だから危険だって思われるかも知れないけど、家出先はおじさんの

所だし。危険度ゼロ、むしろ絶対安全ね。

なんでそこまで言いきれるのかって言われたらそれまでなんだけど、何となく本

能で感じるの。あそこは、この世界で一番平和な場所だって。

おじさんに連絡を取ったら子供たちも連れてっていいって言ってくれたし。

あいつが反省して態度を変えるまで絶対に帰らない!

精々一人虚しく生活すればいいのよ。

ああ、出て行く時のやつの態度!今思い出してもムカつく!!




「あんた、いい加減にしなさいよ!何で私が謝らなきゃいけないのよ!!」

「勝手に勘違いしたのはお前だからだろう」

「はぁ〜〜〜っ!?何意味わかんないこと言ってんのよ!明らかに悪いのは美

女にデレデレしてたあんたでしょ!この浮気者!!」

「はぁ。だから違うと言っているだろう」

「なんで溜息なんかついてるのよ!しかも違うって何?私はしかとこの目で見た

んだからね、決定的瞬間を!!」

「………もうこれ以上言い争っても堂々巡りだ。お前の愚痴はあとで聞いてやる

から、執務室から出てってくれ。政務に集中できない」

「………なっなっなっ何ですって〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!」




とまあ、こんな感じだった訳ですよ。

ほんとーに、ほんとーっにムカつく奴よね。はらわたが煮えくり返りそう!!

こうなったら持久戦。これでもかって程、長い間帰ってやらないんだから。



+ + + + +



「なあ、トーカ。なんかその話を聞くと、お前の旦那が可哀相じゃないか?」

「はぁ!?なに言ってんのよおじさん。可哀相なのは私のほうでしょ!」

「しかしだなぁ。これは明らかにトーカの勘違…」

「ああああっそうだ。これを機にあっちの世界にも戻ろう。お父さんたちにも子供た

ちの事を教えてあげたいし。この可愛さを見ればイチコロ間違いなしよね!」

「おーい、聞いてるかー?」

「そうとなればいろいろと筋書きを用意しないと。引きこもりの娘に行き成り子供が

いるのって分ったら説明を求めてくるだろうし」

「もしもーし」

「ちょっと、なっちゃん!こっち来て!!私と一緒に良い筋書きを考えよ」

「もしもーし…」

「ちょっとおじさん、さっきから何独り言言ってるの。そんな暇があるんだったら一

諸に考えて。あ、そこの竜!あんたもこっちに来て〜」



+ + + + +



未だに気づかれていない、おじさんこと、この世界の神様は。

どこまでも我が道を行く異世界の元養い子に半ば呆れつつ、苦笑いをした。

―――ああ、今日も賑やかだな、と。









END






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