天翔るプチ番外編、華澄さまからのリクエスト


今日のキャラによる一コマ〜とある本屋で〜






ああ、あの子はとうとうここまでやってしまったのか-----ソラディアナは横目で身動き一つせず固まって

しまっているクラウスを見ながらはあっと重たい溜息を一つついた。




今現在二人は旅の途中で立ち寄った街の中にある本屋にいる。何か用があって訪れた訳ではないが、

お昼を食べる所を探している最中に、ふとこの本屋で見覚えのある文字をソラディアナが見つけ立ち止ま

ったのだ。当然隣を歩いていたクラウスも彼女が足を止めた事に気づきその場に立ち止まる。


「おい、どうしたんだ?」


急に止まったまま何かを見入るようにしてその場から動こうとしないソラディアナに、クラウスは不審に思

いながら声をかけた。彼女が今立ち尽くしているのはどこにでもある有触れた本屋の前なのだが、何か

欲しい本でも見つけたのだろうか。ソラディアナが興味を示すような本は神文字に関する資料ぐらいしか

クラウスは思いつかない。印刷技術が発達している現代では、特殊な方法を使って本に様々な色を使う

事が可能だ。最近は若者向けの雑誌なども販売されており、注目を集めていると耳にしていた。

このような本屋に神文字などと古臭い(ソラディアナに聞かれれば烈火の如く怒るだろうが)ものに関係

する本が置いてあるとは思えないし、第一にクラウスは彼女が他の事に関心がいくとは考えれなかった。

では、彼女は何に気を取られいるのか。彼はその事を不思議に思い、ソラディアナの視線の先を追って

みる。そこには、赤い表紙に何やらメルヘンチックな男女が描かれている一冊の本が置かれていた。


「愛のメモリー…?」


思わず口に出してその題名を読んでしまう。その声を聞いて放心状態だったソラディアナは一気に現実

へと戻り、慌てた様子でその本を覗き込もうとしているクラウスに話しかけた。


「ごっごめん急に立ち止まったりして!お腹空いたよね?そうだよね?うんそうだ!さあ、美味しいお昼を

食べる為に今すぐ出発しようっ!!」


そう言いながら、立ち止まっているクラウスの背に手を当て歩くように力を入れた。しかし所詮は女の力、

食い入るようにして問題の本を眺めてしまっておいる彼を一歩も動かす事ができない。

ソラディアナはそんな彼の様子に内心冷や汗をかきながら、何とかこの場は切り抜けねばと一生懸命

クラウスに移動しようと呼びかけた。しかしその努力も虚しく、とうとう彼の視線は本の紹介文へといって

しまう。


「【感動必然っ!ジェニファルドの王子、システリア様と貴族の令嬢サーシャの許されない恋物語】……」


クラウスは呆然とした様子でそれを読み上げた。そしてそのまま固まった状態で動かなくなってしまう。

ソラディアナはそんな彼の様子に、ああばれちゃったと内心ここで足を止めた事を後悔しながら、今は遠

い地にいる友人のサーシャを恨んだ。彼女が何やら自分で妄想したクラウスとの恋物語を書いていたの

は知っていたが、まさか出版してしまうとは。サーシャの実家は中流貴族なため出版にかかる費用の

心配はなかったようだが、友人としてここまでしてほしくはなかった。

ふと隣にいるクラウスに視線を向けてみれば、今度は別の本に視線を向け体を硬直させている。

まだ、サーシャが出版した本とは別のものがあったのだろうか---そう思い彼女もそちらに視線を向ける。

そしてその本に書かれた題名には、サーシャの本を見つけた時以上の驚愕をソラディアナは受けた。


「きっ禁断の愛……」


そんな題名を持つ本は、紹介文がサーシャより印象的である。


【それは、誰もが認めはしない禁断の愛。揺れ動く王子の恋心、自らの主に抱いてはいけない思いで葛

藤し続けるその側近。誰もが予想不可能な、波乱に満ちたシステリア様とライベルト様のラブストーリー】


これは明らかに、巷に女の人たちに人気の男同士の愛を綴った物語である。

ソラディアナはそのような内容の本を読んだ事はなかったが、サーシャ以外の級友がそんな本を持って

いた気がする。視線を戻せばクラウスの顔は青ざめており、未だに心を停止してしまっているようだ。

ソラディアナはそんな彼に深く同情し、意識を現実に取り戻すまで辛抱強く待った。




この日以来より一層クラウスが女性を苦手になったのは、まあ別の御話である。






                                                          【完】